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それはボクが使った本じゃない

ドイツの学校では、5年生から上は、ほぼ全ての授業で先生が異なる。
クラス担任が、異なる科目を三つも四つも教えたりはしない。
教えるのは1科目、多くてもせいぜい2科目だろう。
これがドイツでは普通のやり方だと思う。

そして、息子(6年生)の通う学校では、
授業ごとに、生徒達が教室を移動するシステムを採っている。
教科担任が自分達の教室にやって来るのではなく、
生徒達のほうが先生の教室に向かう。
ドイツ語の授業ならドイツ語の教室へ、
英語の授業なら英語の教室へ・・・と、全ての授業で移動する。

これほどの教室移動は、
新入生(5年生)の時にはみんなすぐには慣れないから、
新年度のごく最初の1、2週間は、誰もが結構ばたばたするらしい。

ところで、ドイツ語・英語・数学に関しては、
それぞれの教室の書庫に、学校所有の教科書が生徒の分だけ揃っている。

その三科目は、生徒達は自分の教科書を持って来なくても良くて、
自由に学校所有の教科書を使っていい。

生徒達のランドセルを、少しでも軽くしてあげようとする、学校側の配慮だ。
また、こうすることで、生徒達に配布している持ち回りの教科書の
傷みを多少は避けられる。

学校所有の教科書は、
当然のことながら、その授業が終わったらちゃんと書庫に戻して、
そして教室を出なければいけない。

しかし、生徒がうっかり家に持って帰ってしまうことも、無いわけではない。
うちの息子は、この学校に通うようになって2年目だが、
これまでに2回くらいは持って帰ってきてしまったことがある。

さて、息子のクラスの数学担任は、ある日生徒達にこう言ったらしい。

「学校の教科書は、ちゃんと書庫に戻すように。
 間違って家に持って帰った子は、次の授業の時に、
 みんなにグミベア(ドイツの普通のお菓子)を持ってこなくてはいけません。」

(みんな気をつけてちゃんと本を返しなさいよ、という先生の気持ちなんだろう。)

私は、このことを、昨日初めて息子から聞いた。
事の顛末はこうだ。

昨日は、息子を迎えに学校へ行った。
息子を連れて行かなければ済ませられない用事があった。

いつものように、学校の駐車場で待っていると、息子が来るのが見えた。
硬い表情をしている。

子供の顔を見て、ああ今日はいい日じゃなかったのかな、と思った。
車に乗り込むなり、息子は爆発した。
運転席の後ろにいつも座る彼が、
私の座る運転席の背もたれを、足で思い切り蹴った。

一体全体どうしたのよと振り返ったら、彼の目に涙が浮かんだ。
とりあえず駐車場を出て車を走らせ、息子が話すのを聞く。

今日の5時間目、数学の時間に、
学校の教科書を使ったけど、でもちゃんと返した。

6時間目はITの授業で、いつもパソコンのある教室に行くんだけど、
教室が狭くてパソコンが足りないからと言って先生が、
7人くらいの子供達を、別の教室(やはりパソコン設置)に移動させた。
自分は、その中に入っていた。

ランドセルは、IT教室においたまま、別の教室に行った。
授業が終わって、ランドセルを取りにIT教室に戻ったら、
自分のランドセルの上に、数学の本がおいたあった。
学校の本だった。

ダニエルとシュテファンが自分に言った。
あ、学校の本なのに、返さなかったんだな!
次の時にはグミベア持って来いよ、
だって先生がそう言ったんだからな!

息子は言い返した。
これは自分が使ったものじゃない!
自分の使った本はちゃんと返した。
なんでこの本はここにあるんだ?

息子の話を聞く限り、それを信じる限り、その本を息子は使っていない。
どうせダニエルだか誰だかが、返し忘れてこっそり息子に押し付けたんだろう。

しかし、見ていた他の子達も、
その本が息子のランドセルの上にあったから、
息子が返さなかったのだと思った。

なんで自分がこんな目に遭わなきゃならないんだ、と息子が悔し涙をこぼす。
ほんとのことを言ったって、誰も信じてくれない。
クラスの30人対自分一人だ。誰が信じてくれる?
なんで自分がこんな目に・・・?

私は、学校での息子を見たことが無いから、なんとも言えない部分がある。

こういう時の息子は、しかし私がこう言うのを待っている。
それはあなたが悪いんじゃなくて、
ママが日本人だから、
だからあなたの面立ちもドイツ人と違っていて、
仲間はずれにされたり、いじめらたりするんでしょう、
みんなママのせいなのよ。
ごめんね。

でも私は、そう言わない。
実際にそうなのかもしれないが、そう言わない。

息子はひたすら、自分のせいじゃない、と思いたいのだ。
自分のせいでなければ、では、誰のせいだ。
自分を産んだママのせいだ。
人のせいにでもしなければ、息子は気持ちを立て直せない。

例えば息子が今、9年生とか10年生(14、15歳)だったら、
もっともっと主張して、ダニエルに本をチカラづくで押し返すことが出来たかもしれない。
しかしもともと気の弱いところのある子だ、それが出来ずに、
ダニエル達は先に部屋を出て、息子はその本をランドセルにしまった。
その本をそこに放り出すわけにもいかない。

こういう話を聞いて、こちらも憤る。
なんて卑怯な奴らだろう。

こういうことをする人間は(子供も大人も関係ない)、
された相手がどれ程嫌な思いをするか傷つくか、しかしさっぱりわかっていない。
それくらい人間として阿呆者だ。

私は、息子に言った。

先生に話すべきだ。
こういう目に遭うことが自分にはある、ってことを先生に知らせるべきだ。
先生にあなたと話す時間が無いのなら、
あるいは、あなたが先生と話す勇気が出ないのなら、
クラス担任と数学の先生に手紙を書いて渡したらどうか。
本当のことを書いて、明日渡したらどうだろう。
もちろん親としてそこに署名はする。
しかし手紙は、下手でも良いから自分で言葉で書くのがいい。

先生は信じてくれると思うが、甘いだろうか。

でも息子は、結局悩んだだけで昨夜は何もしなかった。
用事のために帰宅時間が遅れたのと、宿題が多かったのとで、
分数のややこしい計算をやっと終えた頃には、彼の頭は疲れてしまった。
先生に手紙を書く余力が、無くなってしまった。

夜になって、ママだったらどうする?と聞かれてこう答えた。

明日、絶対明日(こういうことは早いほうがいい!)、
朝いちで教員室に行って
(だって授業開始の20分前には学校に着いているのだから時間はある)、
数学の先生に話す。
本もその時先生に返せれば返す。
先生がいなければクラス担任に話す。
ダニエルとシュテファンの名前も出す。

自分の使った本は確かに返した。
昨日は仕方なくこの本を家に持って帰ったが、
これは自分の使った本じゃない。
自分の使った本じゃないのだから、
私はグミベアなんか持って来ません!

私ならはっきりとそう言う、と息子に言った。
6年生だった自分を思い出せば、できる気が充分にした。

しかし、私は女の子だったのだから、
同じ年の男の子よりも絶対にオトナだったはずだ。
それに、日本の6年生は、最上級生だ。
人生において私は、あんなに自分が大人びた気分を味わったことは、
あの1年間をおいては他に無いかも、と思うくらい、
それくらいオトナになった気持ちがしたものだ。

気の小さい息子に出来るだろうか、出来て欲しい、と期待はするが、
教員室など入りにくい、と思ってしまう息子の気持ちもよくわかる。

学校所有のその数学の教科書は、今息子の部屋の机の上だ。
今日持って行かなかった。
今日と明日は、数学の授業が無い。
基本的には、数学の先生に会うことも無い。

息子は、今日どうしてるだろう。





ところで、子供というのは、
自分で自分を癒やす力が物凄いと思って、
私はいつも感心する。

憤りの気持ちがある程度落ち着けば、
子供はまた何かふざけたことも出来るようになって、笑顔も出る。
見た目には、まるで何もなかったかのように見える。

傷ついても、傷ついても、
自分を癒やして立ち直る。

子供ってすごい。
子供ってえらい。

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カレシできた

あのさ、彼氏できたんだよね、

と娘が言った。

あらまあそれはオメデトウゴザイマス、なんて答えながら、

私は、頭の五分の四まで、ううむ…と考え込んでしまった。

何が私を、穏やかならぬ気持ちにさせるのか、

自分でもよくわからない。

娘がその男の子を好きで一緒にいて楽しいなら、

それは微笑ましいことではないか…

と思う自分と、

恋に不慣れで若すぎる娘を、

母親として単純に気遣いたくなる自分とがいる。

ふ-む。


ああ、子育ての悩みというのは、
こんな風にどんどん内容が高度になっていくのか。
先が思いやられるというもんである。
そして、いつになったら、
こんなもやもやした気持ちから開放されるんだろう。
あらゆる家庭の、人生の諸先輩方を、
私はここで初めて、何かこう、
見上げたくなる気持ちになるんであった。

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バイリンガルへの道はケワシイ

国際結婚の夫婦というのは、
否が応でも言葉というものを意識した生活を送る羽目になる。

夫婦じゃなくても、付き合っているだけでも、
相手の母国語をこちらがうまく話せない場合には、
やはり言葉を常に意識することになると私は思う。

それに、二人が過ごす環境が、
自分の母国語だけでは足りなくなる場合がどうしても多くなっていく。


昔、夫は私にこう言った。
一つの文の中にドイツ語と日本語を混ぜてごっちゃに喋るようなのは絶対に良くない!
そういう風に喋らないよう気をつけよう!

それは例えば、今日はとってもいいWetter(ヴェッター 天気)だね、
なんて言わないようにしよう、ということだった。

ドイツ語で喋るならドイツ語でだけ、日本語でなら日本語でだけ。
私も、できるものならその方がいいに決まっている、と思った。

しかし現実は、目指すとおりに行かないことも多いわけで、
まだ子供が言葉を話す前の頃でさえ、既に私達親の言葉はごっちゃになることも多かった。
(私は、それはそれで自然なことだとか仕方の無いことだとか、思ってしまうが。)


うちには子供が二人いる。
同じ我が子と言えども、二人はかなり違っている。

言葉に関して言えば・・・

現在15歳の、生まれが東京の娘のほうは、
東京→ドイツ→東京→ドイツ(現在)と、
15年の人生の、半分を東京、半分をドイツで育ち、
ちっちゃな頃から、パパにはドイツ語ママには日本語、
っていうのがすんなりとできていた。

現在12歳の、生まれがドイツの息子のほうは、
ドイツ→東京→ドイツ(現在)と、
12年の人生の、これまた半分をドイツ、半分を東京で育ち、
ほんのちっちゃな頃は、パパにもママにも誰にでも、日本語だけで話した。

そういう子ではあったが、今はドイツ語がはるかに優っている。
機嫌が良ければ、私には日本語を話す。
相手が私以外の日本人の時は、がんばって日本語を喋ろうとする姿勢は持っている。

息子の日本語は、アヤシイところもあるから、
結構話せてはいるんだけれども、んー微妙に違うんだよなーと思う箇所があったりもする。


子供に対し、一つの文にドイツ語と日本語を混ぜて話さないように、と
かつては心がけていたのに、現実は、子供達と喋る時にごっちゃになることばかり。

私と娘のお喋りは、日本語のみだからまだいい。
それでも場合によっては、ドイツ語の単語をまじえることもある。
そういう意味では、ごっちゃになってるとも言える。

息子と話すときなど、もっともっと混ぜこぜになっている。
息子は、基本はドイツ語で、私の方はドイツ語で返す時もあれば日本語の時も。

私は、私の日本語を息子が「理解はできている」のだ、と長いこと思い込んできたが、
実はそうでもないらしい、とある時気がついた。
それで息子に対しては私のほうがドイツ語を多めに話すようになった。
コミュニケーションを取れないのも困ると思ったからだ。


かねがね思っている、バイリンガルの人というのはほんとにすごい、と。
どんな環境でどんな風に育ったんだろうかと興味がある。

私の言うところのバイリンガルというのは、
話せるだけじゃなくて、読み書きもできている人のこと。
私はバイリンガルです、と堂々言える人は、
きっとそういう人なんだろうと思っている。

娘は、日本語を読むのは好きで、結構できている。
しかし、書くのは小学3、4年レベルだろうか。(そんなこと言ったら怒られるかな。)
日本語を話せても、書くのはとても難しい。それはよくわかる。

息子は、残念ながら、日本語の読み書きはほとんどできない。
なのに、日本のPS2でドラクエ(日本語)など遊ぶ息子を見ていると、
なあんだ、実は全部読めてわかってるんじゃないの?と不思議になるほど、
うまいのだこれが。

子供の中で日本語とドイツ語が、読み書きも含めて、
共にバランス良く上手になっていけば、こんな素晴らしいことは無いが、
これは本当に難しい。


まあガーネットさんって国際結婚なの?
それじゃ子供はバイリンガルになるのねぇ~!

なんて、昔はひとに軽く言われたことが何度となくあるけれど、
努力の無い親には、子がたやすくバイリンガルになる道など、目の前に開けてはいない。

だから私は、バイリンガルの人ってすごい!えらい!と思うわけだ。

親の努力、子供の(言語への)興味、育つ環境とか、
色んな要素が上手い具合にかみ合わないと、
なかなかどうして険しい道なのである。

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早く生えろ息子の眉毛

息子の眉毛がほぼ無くなってその顔を見る度にどうもぷぷぷっと吹き出してしまう。

よくよく見たらば、子供バサミで眉毛を切ったなんていう生易しいものではなく、

特に左眉に至っては、かなりしっかりと剃ってあった。

パパがシェーバーの後でいつもちょこっと使うT字型のカミソリを使った、ということだった。


なぜに突然眉毛を剃りたくなったのか。

そういった子供の心理を理解できるほどに私は博学ではない。

いや、子供の心理うんぬんかんぬんではなく、ちょっとした遊び心だったんだろう。


しかし、パスポート写真を撮りに行くのは1週間遅らせるかと考えるこの母の気遣いなどなんのその、

当の息子は、理由はどうであれ母親の私が息子の顔を見てはからからと「笑う」のが嬉しいらしく、

眉の無い顔をしてさらに何かとおちゃらけたことをするので、私はさらにけたけた笑ってしまう。


昨日の夕方、息子が夫に言われて自転車でスーパーまでおつかいに行くことになった。

息子にしては珍しくぐずらないなぁと思っていたら、息子が私のところに来て言った。

ママ、EDEKA(エデカ=スーパー)に行くから、ちょっと、眉、描いてよ。

私は言った。EDEKAくらい眉無くても大丈夫でしょ。パスポート写真撮りに行くんじゃないんだから。

それでも私は、アイブロウライナーで描いてあげようとしたが、

かろうじてちょっと眉毛の残っている右眉を描き足したところで、既に息子が立ち上がる。

ああそうだ!(自転車用の)ヘルメットをかぶればいい、戻るまでこれを脱がなきゃいい!

確かに、深めにかぶると眉毛の部分が隠れた。

よかった。これでとりあえず、そんじょそこらの誰にも気付かれまい。

そして息子は、右眉は描き足したが左眉が消えてるという状態を

自転車用ヘルメットでうまーくごまかしてスーパーに向かった。


12歳にしてすっかり不良のチンピラ風情になった息子だが、

実はこれでけっこう気が小さいから、そのギャップが大きくて、私はまた笑ってしまう。


しかし、笑う私の心の内がどうであれ、私の笑い顔はまだまだ息子に安心をもたらすのか。

眉毛をそり落としたことにまったく後悔も無く、かえってまんざらでも無いような息子だ。

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息子のやることといったら

息子はかつて、どうということも無いごく普通の髪型をしていた頃に、

一体急に何を思いたったか、ある日突然、

自分の小さなハサミで前髪を勝手にこんな風に切ってしまったので、

私は随分驚いて、なおかつかなり悲しんだものだったが、

あんまりみっともないので翌日美容院に連れて行き、

息子が一番短く切ってしまった箇所にあわせて、

全てがうまくつり合うようにカットしてもらったが、

なかなか技術が要った。


しかし、あんな出来事など、まだ良かったかもしれない。


さっき、北京オリンピックの開会式を3時間も見て

なかば疲れ果てた私の目の前に突如現れた息子ときたら、



眉がほとんど無いではないか・・・。

両眉薄れかけていたが、特に左の眉などほとんど無くなっていた。

mein Sohn

(心霊写真にあらず。一個余計なのは私の左手。)


思わず絶句する私。

な、なんで、また、そんな・・・オリンピックも始まるってのに・・・。


眉ピアスをしようかと思って、

とかなんとか息子は適当なことをうそぶいたが、

いくらなんでも子供バサミで眉毛を切り取るとは。

それに眉毛があっても関係ないんじゃないの眉ピアスって?

しかし、たかが12歳で何を言ってるんだろうか。


ところで、耳ピアスはともかくも、

眉ピアスも鼻ピアスもおへそピアスも、どうもあんまり頂けませんワタシは。

でもまあ、どうしてもと言うんだったら、

18歳とかなったら勝手にやってください。



娘が口を開いた。

あれ?今度の月曜に、

パスポートの写真取りに行くんじゃなかったっけ?

その眉、どうすんの?



ああ、ため息が出る。

早く伸びて!息子の眉毛!

ほんとにもう、夏休みでよかったよ・・・。

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