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私はあなたの主治医だから

今年の11月で期限切れになる私の『10年パスポート』。

10年ひと昔、というくらい長い時間が過ぎようとしているのだなあ、と、
これを眺めて思ったりしている。

このパスポートを申請した10年前の1998年。
11月のあの日。
私は、幼い子供達(2歳と5歳くらい)を連れて、都庁の旅券課に行った。

そしてその申請の数日後に、私は生まれて初めて、
病気のために入院をすることになった。

入院なんてしたものだから、
出来立てほやほやのパスポートを、すぐには受け取りに行けなくなった。

急に、39度前後の高熱が出て、
段々と息がまともに出来なくなったから、
これは肺炎ということかな、と思った。

でも、子供達は小さいし、夫は忙しくて家にいないし、
だからとりあえずは様子を見よう、と思った。
明日には楽になるかもしれない。
明日がだめでも明後日には…そう思って、ぐったりと待った。

ドイツの解熱剤のアスピリンというのがたまたま家にあったから、
それを飲んで、一時的に熱が37.5度くらいに下がるのを待っては、
子供のご飯の支度をした。
また熱が上がっても、薬で下げては子供をお風呂に入れた。

でも、段々と、薬でもごまかせなくなってきて、
本当に息が出来なくなってきて、
咳もすごくなってきて、医者にかかった。

行きやすい小さなクリニックに行った。
大病院に行く元気が出なかった。
2、3時間待って5分の診察、など、とてもじゃないと思った。

そのクリニックでは、胸のレントゲン写真を撮ってもらった。
薬をもらって帰ったはいいが、一向に症状は改善しなかった。

人に感染する病気だったらどうしよう、と思って、
いつもそばにいる子供達のことが心配だった。

11月の、勤労感謝の日の頃だった。
土日とつながって連休になっていた。

あの連休の直前に熱が出て、高熱と咳に連休の間耐えたけれども、
連休が明けても39度の熱が下がらなくなったから、
仕方なく、病院に行く決心をした。
体が、病院に行け、と言っているのがよくわかった。

最初に行ったクリニックの医師は、
親切にもレントゲン写真を私に持たせてくれて、快く紹介状も書いてくれた。
私は、それを持って、最寄の目黒区の病院に行った。

レントゲン写真を持たされて来る患者など、珍しかっただろうか、
内科の医師は、私のことをすこし気にかけてくれたようだった。

高熱と咳でつらい私は、待合のベンチにほとんど倒れかけていたら、
看護婦さんが私のそばに来て、こう言った。

先生がさっきあなたのレントゲン写真を見たからね。
先に血液検査をしてきて下さいって、先生が言ってるの。
そのほうが話が早いからって。
それから、申し訳ないけれども、もう一度胸のレントゲン写真を取ってきてね。
今度は明るめにして撮りましょうって先生が言ってます。
そうすると、肺の中がもっとよく見えるから。
先にそれを済ませてもらってから先生に会おうね。

私より10才くらい年上そうな優しい看護婦さんは、
まるで子供に諭すように、私にそう伝えてくれた。

そうさせてもらえたら私もありがたいと思って、
おぼつかない足取りでレントゲンと血液検査に向かった。

ふと、どんな先生だろう、と思った。
いい先生のような気がした。

あんまり体が辛かったから、これはもう即入院になるだろうと思ったら、
先生に会った途端に、「緊急入院」のスタンプをカルテに押された。

覚悟は出来ていたが、ショックだった。
私は、気軽な一人身じゃない。
その日私のためにわざわざ休暇を取ってくれた夫は、
幼い2人の子供達と一緒に、今、家にいる。

血液検査の結果は、奇妙なものだったらしい。
具合が悪くなると増えるはずの白血球が、異常に減少していた。

先生は言った。
「すぐに入院してもらいますが、
 入院の期間は、大事をとって4週間をみて下さい。
 すこし難しい症状かもしれない。」

4週間!?そんな長く?

病院から夫に電話をかけた。
4週間かかるかも、と伝えながら、思わず泣けてきた。

自分が病気になったせいで家族に迷惑がかかると思うと、
もう申し訳なくて、涙が出て仕方なかった。

あの時夫は、電話口で私に腹を立てた。
自分はどうすればいいのかと言った。
仕事は?会社を休むわけには行かない、と。

もちろんそうだ。会社はどうしたらいいんだろう。
私は、ついさっき医師から緊急入院を言い渡された身だ。
どうしたらいいのかわからなくなって、私はもっと泣けてきた。
こういう時に、核家族というのはほんとに大変だ。

2日後、夫の会社は、私のために通いのヘルパーさんを探してくれた。
私が倒れて家を留守にしても、もちろん何とかなるのだった。
 
あの日は、入院の覚悟はしていたから、数日分の荷物を持って来院していた。
病室に案内され、ベッドに横たわったら、すぐに点滴をされた。

とても若くかわいらしい看護婦さんが来て、
私に症状について色々と質問をした。
患者に対し、真摯な態度で優しく接するその看護婦さんに、
私は既に救われる気がした。これで楽になれると思った。
まだ時計は、午前中だった。

さっきの先生が、午後の早い時間に回診に見えた。
先生に、気分はどうかと聞かれて、私はこう答えた。

体は点滴後すこし楽になったけれど、
私がこんなことになってしまって家族に迷惑をかけているかと思うと、
それがとてもつらいです。

そしたら先生は言った。

あなたはね、例えば勝手にお酒飲みすぎて病気になったとか、
そういうんじゃないんですよ。

肺炎の原因は、僕は大体見当がついているけれども、
まだ特定できない段階です。
だから毎日検査をしていきましょう。
原因がはっきりすれば、今よりもっと適切な薬が出せるからね。

心配しないで、体をよく休めて。
早く元気になって家に帰れるといいね。

思ったとおりに、いい先生だった。

しかし、翌日の回診の時に、
先生から血液検査の結果を聞いて、私はまた心配になった。
昨日の時点で既に少なかったけれど、今日はまた白血球が3500減っている。
どうしてだろうな…。

そして、その翌日には、また3500減ったと言われた。

正常値がどの程度なのか覚えていないけれど、
毎日毎日3500ずつ減って行ったら、0になる日もそう遠くないと思った。
0になったら私はどうなるんだろう。

でも、入院4日目くらいになって、白血球の減少が止まったと言われた。
これで次第に増えて行けば大丈夫。

私の入院が決まった時には、幼子二人をかかえて多少うろたえた夫も、
1週間たった時には、気持ちに余裕が出てきたのだろう、
ちゃんと直るまで病院にいてゆっくり休むといい、と言ってくれた。

肺炎の原因は、マイコプラズマというものだった。
薬がちょっと強いものだったこともあって、体は疲れた。
咳は、退院後もひと月半以上続いた。

結局私は、8日間入院していた。
退院前の診察の時に先生から、1週間後にちゃんと来院するよう言われた。

受診は、先生のお名前で申し込んでいいんですか?
と私が聞いたら、先生が言った。

もちろんそうしてください。
だって私は、あなたの主治医ですから。

先生の言葉は、とてもありがたく思えた。
医師からそういう風にはっきりと言ってもらったことは、かつてなかった。
たまたまあの先生にめぐり会えて、私は運がよかった。

退院しても、ずっと咳だけは取れなかったが、
受取りに行けなかったパスポートも、そのうち都庁まで受け取りに行った。
退院後も2度通院して、すっかり回復した。

このパスポートを見ると必ず思い出す、10年も前の出来事だ。

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今回は長かったですねー。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。
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コメント

No title

こんにちは。はじめまして。
今回のお話、とっても感動しました。
身体が弱って、心細くてどうしようもないときに
お医者さんや看護婦さんに優しくしてもらえると
とっても安心するし、心強く思えますよね。
反対に、原因がわからないからといって
「なんで来たの?気のせいじゃないの?」みたいな
態度を取られると、がっかりするし、自分はどうやったら
楽になれるんだろう、救われるんだろう・・・。と
絶望感に襲われる。
病は気からとも言うし、医療に携わる人は自分の態度一つでも
患者を安心させられるんだということを常に心の中に置いていて
欲しいですね。
ガーネットさんは家族思いで責任感がとてもお強い方なんだと思うのとともに、良いお医者さんに出会えて、手遅れにならずに
お元気になられて本当に良かったと思いました。

初めまして!

ご訪問ありがとうございます!
どこかで見たお名前、と思ったら、あいざぁさんのところのコメント欄で。
グリュンさんのブログも見てますよー。

あの時は、あの先生に診て頂けて本当に運が良かったです。でもあの病院は、私はとても好印象があるんですよ。息子が外で転んで頭を切った時も、主人が急病になった時も、夕刻にあの病院に救急で入ったんですが、対応がとても良かったんです。それで好印象。

感動して頂けるような文章を書けたとは嬉しいです。
自分では、自分のことを家庭的なタイプの人間とは全く思っていないんですが(料理下手だし…)、それでも、確かに10年前のあの頃というのは、子供も小さかったから、もっと頑張っていましたね。
(主婦業は昔も今も下手ですが。)
でも、今はもう、熱を下げてまで家事や子供の世話をするなんていうあんな芸当できやしませーん!(笑)よくやったなあ、と我ながら思います。

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