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難しいこと

昨日は、朝早くに家を出て、夫の実家に義母を見舞いがてら庭仕事をしに行った。

やっと学校も夏休みに入ったことだし、子供達も連れて行けばいいようなものだったが、
最近我が家は結構複雑で、二人の子供達はもう親にほいほいついて来ることはない。

娘ははなから行く気がない。
息子は、一緒に行くと言ってみたり行きたくないと言ってみたりで揺れ動きぐずぐずしたから、
私達ももう子供の機嫌をとって連れ出すのが面倒になった昨今、今回はとっとと置いていくことにした。
子供達は、親がいないとかなり嬉しいらしいので、ま、適当にやってよ、と、言い残し夫と二人で出発した。

家から実家までは、車で1時間半ちょっとかかる。
私達が実家に着いた時、義母はリビングのカウチに横になっていた。
起きなくていいよと言ってその傍らに腰掛けた私の手を握って、義母は感極まってしゃくりあげて泣き出した。
なぜ私の顔を見て気が緩むのかと不思議な気もしたが、
義母の人柄からして、きっと見舞いの誰かに会うたびに感極まっているんだろうと思った。
私も涙もろいが、義母も負けず劣らず涙もろい人だ。

7月半ばに義母が受けたのは、腎臓の一部を摘出する手術。
手術自体は成功したが、術後に麻酔の後遺症だったのか気持ちの悪い日が5日も続いたそうで、
吐き気が治まらずとてもつらかったようだ。
(義母が説明するまでもなく、私は既に義兄からそのことは電話で聞いて知っていた。)

義両親のすぐそばに住んでいる義兄夫婦は、今日から旅行に出ている、と義母が言った。
実の母親がこういう時に、長男が旅行などに出るもんだろうか?と内心思ったが、もちろん私の口出すことではない。

夫がかねがね義兄(夫にすれば実の兄)から言われていることの一つに、「親の世話」という大テーマがある。
義兄夫婦は、義両親の家のすぐそばに家があるから、何かというと親から頼りにされて、それが負担になっている。
もっとはっきり言うなら、義兄は、親のことでは貧乏くじを引いてしまったと思っている。
こんなに親の近くに家を建てるんじゃなかった、という後悔がいつも胸のうちにあるんだろう。

今回、義兄が、母親がまだあまり動けない状態なのに旅行に出ていなくなってしまったというのは、
この私達にも親の世話をしろよ!という意思表示だった。
まあ義兄のそういう思惑くらい、彼の期待を裏切る事無く私自身もちゃあんとわかっている。

私が16年来知っている義兄夫婦は、基本的には二人とも穏やかで優しい人達だ。
特に義兄の奥さんは、心配りがまるで日本人みたいに細やかで、私は彼女が好きだ。
義兄のことも好きだし、彼の言い分もよくわかるつもりだ。

私達夫婦は、いつも義両親から離れて住んできた。
夫は、若い頃から親元を離れて外国に行った人で、結婚前もいつも親から離れて暮らしてきた。
私達が結婚した時は東京に住んでいたが、
義両親からすれば東京などそれこそ1万キロの彼方の、それもアジアの「異世界」であっただろう。
現在のように私達がドイツ国内に住んでいても、夫の仕事の関係上、住んでいる場所が義両親からはどうしても遠い。
(と言っても、現在の距離は約140キロだ。800キロ離れているとかではない。)
でも義両親からそれに対して不満を言われたことはただの一度も無い。

義母は、ゆっくりとだが自分で動いて、少しなら家事も再開している。
食事はケータリング・サービスを利用し、
強力な助っ人エファおばさんがイギリスに戻ってからのお掃除は、巡回介護サービスの人にお願いしている。

夫と私は、この2日間目一杯庭仕事をしたが、それでも終わらぬ作業に広い庭を半ば恨めしく思いながら、
結局たった一泊だけして今日には帰ってきてしまった。
でも、夫の仕事の関係でそうなったのだから、私も何も言わなかった。
本来ならば、1週間でも2週間でも義母のそばにして、料理や掃除や庭仕事をしてあげてればいいのだけれど。

ところで、私にはもう両親がいない。
そして私は、実は自分で親の面倒を見た経験が無い。

私には兄が一人いて、親のことは兄夫婦が全て看てくれた。
私は、親が亡くなり何年たっても、そのことでは兄夫婦に頭が上らない。
今もとても感謝している。

私は、父とはとにかくうまくいかなかった。
気難しかった父を、元を正せば赤の他人の義姉は、母亡き後、自ら仕事を持ちながらもずっと面倒を看てくれていた。

それなのに私は、義両親の所にたまにちょこっと行って、庭仕事をしてそれでまた帰ってしまう。
元はと言えばそれは夫のやり方だが、私がそれに対し反論したことも無い。
なぜ反論しないんだろう。

それはやはり、正直に言えば、私も義両親の世話を面倒だと思うからだ。
この私が義両親の面倒をみるとしても、
例えば食事は、果たして彼らの口に合うものを作ってあげられるんだろうか。
ただでさえ料理の苦手な私だ。
ケータリングの食事の味付けに文句を言う義母は、こんな不味いものは食べられないとまで言う。
それになんと言っても、親の世話と言うのは、実の子供達が話し合って決めるべきことではないか。

ただ不思議なのは、夫も夫の兄弟達も、なぜそんなに面倒がるのだろうということだ。
彼らは、私と違って、親と(私の場合は父親とであったが)どうしてもうまくいかなかったという人生を送って来なかったではないか。
それならなぜ?と私は思ってしまう。
親の世話というのはそんなにしたくないものだろうか。
それとも、そう思うのは私が男ではないからだろうか。

でも、そんな風に偉そうなことを考えてそれを夫に伝えてはみたものの、
いざとなると義兄にも義弟にも言いにくい。
結局私自身は、実の親の世話をしたことが無いのだ。
そこを指摘されると、私に返す言葉は一言も無い。
こんな私が一体何を偉そうに言えるだろうか。
そう思って私は、また口をつぐむのだった。

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