FC2ブログ

コロブ

息子がスウェーデンに発った5日後に、夫が同じ便で発った。

夫もいなくなり、私は娘と二人きりになった。
こんなことは滅多に無いので、この貴重な数日間をせいぜい楽しもうと、
娘も私も楽しみにしていた。


それが一転して、家から一歩も出たくない気分になることが起きようとは…。
そう、人生何が起こるかわからない。


ことの顛末はというと…。

先週末の土曜、家から3kmの隣町でお祭りがあり、
夫は友人一家を誘って一緒に行こうと言い、
さっさと連絡を取り合って、祭り会場で落ち合うことになった。

私は、何となく気乗りしなかった。
祭り自体に行きたくないというのとは違う気持ちだったが、
ただ何となく、出かけたくなかった。
でも、「何となく」だけでは夫に通用しないので、行くことにした。

夫が、自転車で行こうと言った。
そうすれば、飲んでも関係無い、と。
(いや、自転車の飲酒運転だって罰せられるのだから、本当は関係無くはない。)

ただ、家からお祭り会場までは、
そのほとんどが車の入れない散歩道を通ることになるので、
途中どこかでパトカーと出くわす可能性は確かにほぼ0に近い。

仕方が無い、自転車で行くか。
距離的には問題ない。3kmなどどうということはない。
しかし私は、真っ暗な帰り道の心配を、家を出る前からし始めていた。

無駄なもの(?)が一切くっ付いていない私達のマウンテンバイクには、
もちろんライトも付いていない。スタンドとかも無い。
(そんな物くらい買って付ければ良いものを…。)

ライトが無い、もしくは、点かない自転車で夜間走ると、
それをおまわりさんに見つかれば必ず止められる。
だから夫は、せめてもの対策に懐中電灯を二つ見つけて来た。
というか、お咎めが無いとしても、
明かりが何も無いんじゃとても夜道は走れない。
野原の一本道には、何の外灯も無いのだから。

祭りは、思っていたよりずっと楽しかった。
自転車だから暗くなる前に帰りたかったが、
ミニ花火大会が始まった頃には10時を回り、
もちろん辺りは真っ暗になっていた。

夫は何だかとても機嫌が良くて、
知り合いに出くわす度にそれぞれに話も弾んだ。
私達は、ビールの後はワインの炭酸割りに替えてさらに飲んだ。

さあ帰ろうとなった頃には日付が変わろうとしていた。
夫は、かなり飲んでも、酔って乱れるということの一切無い人で、
私はというと、彼ほどには強くない。
二人ともほぼ同じ量を飲んだから、
私の方が彼よりずっと酔っていたはずだ。


自転車に乗る時いつも先を走る彼は、
二つ持ってきた懐中電灯のうち幾分かでも明るい方のを選んだ。

祭り会場を出て、閑静な住宅地を抜け、暗い散歩道に入る。
道がアスファルトの部分は何の問題もなかった。
広い草原の一本道(土の道)も、
月明かりがあったので思ったよりはましだった。

酔って自転車に乗ったら危ないかもしれないとか、
そんな殊勝なことはもう考えていなかった。


家に近付く手前で、森を抜けなければならない。
月明かりの全く届かない真っ暗な森の、土と小石の細い道は、
よく知っている道なのに、よくわからなかった。

乾いた水溜りのへこみとか、
石ころや落ちた小枝などで道はでこぼこしていて、
何度かタイヤを取られそうになり、
ああもう自転車なんて嫌だと思った。(そこで降りて歩けばよかった。)

自転車で帰らなきゃいけない羽目になったのは
夫がそう言い出したからだと思い、段々夫のことが憎らしくなってくる。

酔いと疲れで集中できず、そのうち泣きたくなってきた。
ただでさえろくに見えない暗い道は、浮かんだ涙でもっと見えなくなった。
そして再びタイヤを取られ、今度は転倒した。


顔を傷つけたとすぐにわかった。
正直に言うと、そのことで私は正気を失ったと言っても大げさではない状態になった。

体のどこに打撲を受けようと、体のどこかをちょっとくらい切ろうと関係なかった。
顔の傷にただ気が動転し、涙がもっと出てきた。
もちろんそれがどんな傷かもわからなかったが。

夫は、10メートル程先で自転車を止め、私が立ち上がるのを待っていた。
私に手を貸しに戻ることは無かった。
転ぶなんて馬鹿だなさっさと立てよ、くらいのことを思っていたんだろう。


私がすべきことは、
カゴからどこに吹っ飛んだかわからないハンドバッグを探し、
自転車を起こすことだった。
でも私はそのどちらもせずに、起き上がると夫の元に歩いた。

転んだ女に手を貸すでもなく突っ立っている男に、
私は八つ当たりをせずにいられなくなった。

至近距離まで来たところで、
私は言葉にならない声を上げて彼の胸元をこぶしで思い切り叩いた。
そしてくるりと向きを変え自分の自転車に戻るつもりだったが、
思い直して振り返り、もう一発叩いた。

夫は何か抗議の声を上げたみたいだったが、私の耳には入らなかった。
暗闇の中、夫は私の顔に傷が出来たことが見えていない。
私の気がそこまで動転している理由が彼にはわからなかった。


私が転んだこと自体は、夫が直接手を下したわけではない。
それに私には、友人一家(ご主人は禁酒中)の車に
行きも帰りも乗せてもらうという選択肢もあった。
でも、夫が一人で自転車でというのも、特に帰りがかわいそうかなーなどと思い、
一緒に自転車で行くと決めたのはこの私。


私は、倒れたままの自転車に戻らず、
ハンドバッグがどこに飛んで落ちたかも顧みず、そこから歩き出した。
歩きながら、歩くことはなんて安全だろうと思った。

100mも歩かないうちに、家の前に続くまともなアスファルトの通りに出た。
まったくばかみたいだ。あと少しだったのに転ぶなんて。


バスルームで鏡を見たら泣けてきた。
傷を水で洗い流して、鏡を見てまた泣いた。
たいした顔じゃないというのに、
傷ついた自分の顔はとてもショックだった。

その夜は、夫の隣で寝る気にならず、
布団と枕をかかえてリビングのカウチに横になった。
大きなカウチだからスペースは充分ある。
首も腕も手も脚も痛かったが、顔が腫れていく感覚が一番つらかった。

明日起きたら、泣きはらした目と腫れた顔はどんな風になっているだろう。
(不幸中の幸いで、傷は顔の下半分だけでした…。)


翌日は昼近くまで寝込み、起きてから夫に聞いた。
あなたはケガしなかった?私あなたを叩いたよね。
なぜ夫にそんな風に聞いたのか、自分でもわからなかった。

夫が私の顔に目を見張る。
私の昨夜の八つ当たりの理由が、ようやくわかったようだった。


顔や体が受けたショックは、それはそれで充分にショックだったが、
夫を叩くなどという凶暴性に私は自分でショックを受けていた。
日頃の鬱憤は、どんな時にどんな形で爆発するかわからないものだなと思った。

心と体が受けたショックと痛みとで、私はその日一日寝込むことにした。
食欲は無かったが、私の他には誰も食事の用意をしようという人がいなかったから、
仕方なく起き出してそれだけやると、また寝込んだ。
本当は、傷が治るまではもうずっと起きたくないと思った。


その翌日に、夫はスウェーデンに発った。

私は、こんな顔を誰からも見られたくなかったから、
家から一歩も出たくないというのが本心だった。
でも、仕方なく夫と一緒に空港に向かった。
夫が帰るまで車を空港の駐車場に置きっぱなしにされるよりは、
自分で運転して帰るほうがいい。

いつもなら夫と空港のカフェでお茶でもしてから別れるところだが、
私はとんぼ返りすることにした。彼も異論は無かった、

心の動揺はまだ完全に収まってはいなかった。
左の膝が痛くて、クラッチを踏むために意識して力を込めなくてはならなかった。
落ち着いて走らなければと、自分に言い聞かせた。
こんな時こそ、いつもより速度を抑えて慎重に。


そう言えば最近、家からそう遠くない所で、
正面衝突事故直後の車2台を見たことがあった。

先日、息子を空港へ送って行った日も、
先行車2台がすんでの所で事故を起こしそうになった。
1台が無茶で馬鹿な運転をしたのが原因だった。
大してスピードは出ていなかったが、もしも事故が起きていたなら、
私達の車は避けられずに追突していたかも知れなかった。

自転車での転倒は、
もっと悪いことが近々起きるかも知れないよと誰かが私におしえて
注意を促してくれたようにも思えてきた。


ものは考え様。
もっと悪いことが起きなくて良かったのだと、
そう思わなければ。

木に激突しなくてよかった。
目に怪我をしなくてよかった。
どこかに枝や何かが刺さらなくてよかった。
縫うような怪我をしなくて良かった。
あちこち痛いけど、顔もすごいけど、
痛みを除けば体はぴんぴんしてるじゃない。
もっともっと悲惨なことは世の中にいくらだってある。


日一日と少しずつ気持ちは持ち直していく。
できたかさぶたの下に新しい皮膚が再生している。
消えない傷もあるだろうけど、
私のドジであちこち傷つけられた私の肌が、
一生懸命きれいに戻ろうと頑張ってくれていると思うとただありがたい。

明日には、また少し傷はきれいになっていく。それをじっと待とう。
それから、暗闇で自転車は、もう二度と乗らないことにしよう。


FC2ランキングへブログランキングへにほんブログ村主婦ブログへにほんブログ村ドイツ情報ブログへ
0円のWEB素材屋さん
のランキングボタンです。
ボタンにカーソルを乗せると行き先が出ます。
さあ行きたいところをクリックしましょう!ついでに私も喜びます。
スポンサーサイト



コメント

NoTitle

ガーネットさん、初めまして。
長い間いつもガーネットさんのブログを楽しみに読ませていただいています。
今回は素通りできずにコメントしてしまいました。
どうか早くお顔を心の傷が癒されますように。
いつもガーネットさんのこと応援しています!

NoTitle

コマネコさん、どうも初めまして。
「長い間」というのが何とも嬉しいです。ありがとうございます。
少々立ち直った今になってこの投稿を勢いで書いてしまいましたが、
実は公開直後に「やっぱ削除しようかな」と考え始めてました。
だって、そんな乱暴な人だったとは!と
読者の方に思われてしまったに違いない…と思って。
だから、あったかいお言葉をどうもありがとうございました。

お大事に、、、、

こんにちは。
またまたお邪魔します。
ガーネットさんのだんな様を悪くは言いたくありませんが、倒れたガーネットさんの所へ助けに来てもらえなかったのは悲しいですね、、、もし怪我がなかったとしても。私も同じように相方を叩いてしまうと思います。きっとだんなサマ、ガーネットさんのお顔の傷を見て深く後悔されてると思います。ただ、もう過ぎてしまった事なので何も言い出せないだけなのかも、、、。早く良くなる事を願っています。
元気を出されて娘さんとの女性だけの時間を楽しんで下さいね♪

NoTitle

なつこさんも私と同じように叩いてしまうかも、ということで、
ありがとうございます、嬉しいです。
せっかく娘と今週はあちこち買い物にと思っていたのに、今日までほとんど家に閉じこもってしまいました。庭に出る気にもなりませんでした。出かけたとしても車の囲いの中にだけ(笑)。娘をどこかに送って行くだけとか、娘をどこかまで乗せて行って私の代わりに用事を済ませてもらったりとか、そんな風にしてこの数日は過ごしてしまいました。
明日か明後日には元気と勇気を出して、娘と出かけようと思っています。
どうもありがとうございました。

NoTitle

ガーネットさん、こんにちは。本当に大変でしたね。
なんとなく分かるような気がするのですが、ガーネットさんも
日本人女性なので、多分怒りを露わにしてしまうのは醜いと
思っていらっしゃっているところがあって、余計に旦那さんに
ご自分が取った行動のことでご自身を責めていらっしゃるの
ではないでしょうか?でも、ガーネットさんがお怒りに
なったのは私も分かりますし、意味のあることだったと
思います。

旦那様もガーネットさんのご性格をよくご存じだと思うので、
そんなガーネットさんが平静でいられなかったことや、また、
次の日に起きてきたガーネットさんの顔に傷があるのを
ご覧になって、きっと深く反省なさっていると思います。先日、
私は森大好きなドイツ人友人と「森は危険だ」という話を
したのですが、その友人も森が危険だということは認めて
いましたし、特に夜の森は本当に危険ですよね。

好きな事でも存分になさって、心身をリフレッシュなさって
下さい。ご回復を心からお祈りしております!

NoTitle

この記事、長々と書いた割には公開後に考え直し削除しようかと思いました(だってほら、野蛮だから)。でも、こうして温かいコメントを三つも頂き、消せなくなってしまいました(笑)。ありがとうございます。
時間というのは本当に、いろんな気持ちを解決してくれる、もしくは、和らげてくれるもので、あれから丸四日経った今、傷もだいぶ良くなってきて、お陰様で気持ちの方もかなり楽になってきました。
主人は、私とのことでは「過ぎたこと」に対しコメントするってことが滅多にありません。反省や後悔があったとしても、それを口にしない。ましてや謝るなんて絶対無い!だから私には何も伝わりません。そもそも、反省するとか謝るとかの「レベル」が私とは段違いです。彼は今、スウェーデンで私のことはもう考えていないと思います。傷がそのうち治るのはわかっているから。忘れたいことはさっさと忘れて、楽しんでいると思います。同じ楽しむならより良く楽しむ、それがこちらの人の姿勢だと思っています。
夜の森……あそこまで暗いとは知りませんでした。酔っていなくても歩くべきでした。一人取り残されても。ちなみにその森に居る動物で一番大きいのは牡鹿ですが、まぁ熊だっていたかもしれない、とか考えれば、何からも襲われず死なずにすんだわけで、そんな風におよそ有り得ない最悪の事態までも空想してみれば、どこにでも救いはあるというか。あ、熊蜂とかいないとも限らないわけだし。
何はともあれ、どうもありがとうございました。またちょっと元気が出てきました。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

Message
★当ブログへようこそ。
★コメントは承認後の公開です。
★非公開ご希望コメントに対しては、お返事したりしなかったりです。
★拍手コメントは受付けていません。
★ランキングボタンや拍手をクリックして下さる皆さん、どうもありがとう!
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
プロフィール

granat

Author:granat
初めまして。ガーネットです。
南ドイツ・バイエルン州に住んでいます。
どうぞよろしく!

もっと知りたい方はこちら
FC2カウンター
最近のトラックバック
ブログ内検索
月別アーカイブ